結婚事情

でも、そんな風にして待ってるのも5分が限界。

顔の表情も、足腰もつっぱってきた。

水口さん!

いきなり女性を待たせちゃだめよ~。

気づいたら待ち合わせ時刻、10分が経過していた。

こんなことになるなら、本屋で待ち合わせにしてもらうべきだった。

時計台の下って、雰囲気はあるけど、待たされる側にとっちゃ苦痛以外の何物でもない。

今日はついてないのかな。

短く深呼吸して前髪を掻き上げたそのとき。

「すみません、お待たせしてしまって!」

ものすごい風圧と、ほのかなオーデコロンの香りが私の鼻をかすめた。

視線を向けると、額に汗をにじませた水口さんがネクタイをゆるめながら、頭を下げていた。

明らかに、ものすごい勢いで走ってきた感じ。

呼吸を荒げながら、ていねいに謝ってくる水口さんは、それだけで私の心をわしづかみにした。

なんていうか。

ものすごく、色っぽい。


額の汗と、少し紅潮した頬。

ゆるんだネクタイ、肩で息をしながら何度も謝る姿。

どれも、これも。


そんな水口さんに、しばらく言葉を失って見とれてしまった。


呆然と立ちつくす私に、

「ご機嫌悪くされましたか?」

水口さんは、心配そうな顔をして私の顔をのぞき込んだ。

とたんに我に返る。

「あ。すみません。全然待ってないから大丈夫です。私も今きたところだから。」

慌てて、適当に話を合わせた。