タクシーの中。

二人は何も言わず、ただ、外をぼんやりと眺めていた。

街はどんどん暗闇に包まれていく。

人波も次第になくなり、何もない宇宙に私たちのタクシーが浮かんでるような錯覚に陥った。

あれだけお酒を飲んだのに、ちっとも酔いが回っていない。

少し酔ってたら、勇気が出そうなことも、理性が邪魔をする感じ。

気がついたら家の前についていた。

「ねーさん。」

私が降りようとしたとき、タクシーに乗ってはじめてタツヤが口を開いた。

「今日はありがとう。」

タツヤは、少しだけ真面目に笑顔を作っていた。

「こちらこそ、今日はありがとうね。」

私も少しだけ笑って、右手を挙げた。


バタン


タクシーの扉が無機質な音を立てて閉まった。

もう後戻りできない、自分の選択にとどめを刺すかのように。

そして、タツヤの乗るタクシーは真っ暗な道へ消えていった。

小さくため息をついて、玄関の扉を開けた。