「君が今の状況に陥った原因となる根本の部分だ。・・今の会社に入ったのは、25歳のときだったね」

カインは荏原を見下ろしながら、ニヤニヤと話を始めた。

「カイン・・、君は一体・・」

「僕は何でも知ってるよ。黙って聞いてればいい。」

荏原はその場にしゃがみ唇を噛みしめた。

「その時、会社の上司の間で将棋が流行っていた。そうだよね?」

荏原はカインから目をそらし、遠くを見つめている。

「君は元々将棋を中学生くらいのときに、少しかじり、ちょっと勉強しただけで学校で1番強くなったことがある。
将棋部でもないのに将棋部の部長まで倒してね。
だけど、君は将棋部に入らなかった。
将棋部でもないのに、誰よりも強いというのが君の思うかっこよさだったんだよな。
そして・・、それから10年ほど将棋というものをしていなかったが、会社に入り、将棋に再び出会う。なまじ、知識があるだけに興味深々にね。だけど、ブランクがありすぎたのと、その会社のレベルの高さに見ているだけで満足していた。新鮮で楽しかったんだ。そして圧倒されてたんだよね。」

カインはクスクスと笑いながら言う。

「将棋はすごいというのは覚えてる?。記憶、直感、読み、判断力、柔軟な発想、強い精神力、全てを必要とする。そのことが、君の久しぶりに買った将棋の本に書いてあったよね。・・まあ、その辺は忘れてるかな?人間だもんね」

荏原はカインを睨む。
しかし、カインの雰囲気にのまれた・・。カインは月の光を背中に浴び、金髪でウエーブのかかった髪、それに合わせた真っ白な肌は、まるで天使のようだったからだ。

「来る日も来る日も、休憩時間になると将棋を見ていた。・・すると、ある時、上司の一人に言われたよね?<・・お前もやるか?>」と。しかし、君は断ったんだ。・・照れながら、出来ないとね。」

カインはクスクスと笑った。

「何がおかしい?・・・」
荏原は聞いた。