「高野、起きろ」

「ん……」

薄らと目を開く高野はぼんやりと前方を眺めている。


「木下さん……?…あ!寝ちゃってすいません!」

状況に気づいて慌てて頭を下げる高野に苦笑する。

「気にすんなって」

俺の言葉に申し訳なさそうに俯く。

「また、明日な」

「はい。ありがとうございました」

高野を下ろして車を出した俺は、ミラーに写る高野に自然に口元が綻んだ。

いちいち可愛いヤツだな。


ふと、そんな事を思って気恥ずかしくなった。

俺、ちょっとおかしい。

高野にキスしそうになったり、可愛いって思ったり。

なんか放っておけない気持ちになって、つい目がいく。

バイトの一人にこんな気持ちを持つなんてダメだ。
明日からはみんなと同じように接さないと…。

建前に縛られて本心をねじ伏せる不快感が胸に広がる。
それを吹き飛ばすようにアクセルを踏み込んだ。