「あの後、ちゃんと話さなかったのか?」

「話しました。けど…」

その後の出来事を思い出して、ブルッと身震いする。

「高野?」

私の様子を変に思ったのか木下さんは身体を起こした。

「ちょっと冷えちゃったかな」

暖房の効いた車内では矛盾する言葉だと気づいて自分の鈍臭さに情けなくなる。

こんな時、上手く切り返せないボキャブラリーの貧困さも恨めしい。

落ち込む私の頭に何かが降ってきた。

「寒いんならそれ貸してやる」

さっきまで木下さんが着ていたせいか、すごく暖かく感じて涙が滲んだ。

「あ…りが…と……います…」

涙を零すまいと堪えると声が震える。

頭から上着を被ったままの私はさらに暖かいものに包まれた。

「そんな風にされたらこうするしかないだろ」

木下さんの腕の中の温かさに張り詰めていたものが切れて、泣きじゃくってしまった……。