───体育祭当日。

混合リレーは演目の最後だった。
学年ごとにクラス順位が着けられる中、芽依達のクラスは僅差で2位に位置していた。

つまり、このリレーで1位を取れば優勝。

逆に言えば、取らなければ優勝を手にすることはできない状態。


「無理!プレッシャーでかすぎるよー!」


「ここで頑張らないと女がすたるよ芽依ちゃん」


「そうそう、アンタ足速いんだし大丈夫だって芽依」


頑張って~と叫ぶ友人に見送られ、芽依はとぼとぼと出場者の枠に座り込んだ。


「てか、周りも速い子しか居ないしなぁ…」




芽依は一人拗ねたように口をすぼめた。




「おいブサイク」



聞こえてくるのはいつものムカつく"アイツの声"



「そんな顔してるとブサイクが更にブサイクだぞ」


アンカーの目印であるチームカラーのたすきを付けた泰紀が、芽依の前に立ちはだかる。


「…はぁ?!あんたブサイク言い過ぎでしょ!」


「いやだって本当の話だし」


「いいよね~繊細な私と違って体力バカは悩みが無くて」


「お前体力バカって何だよ」


「だっていかにもそのお馬鹿具合は『得意科目は体育だけです!』って顔してるじゃん」


「はぁ?!お前完全に馬鹿にしてっだろ!自慢じゃないけどオレは赤点は童貞だぞ!」


「ヤダ何その言い方!マジわけわかんない!」


泰紀の言い方が面白くて、芽依は思わず吹いてしまった。

泰紀はそっぽを向くと、恥ずかしそうにチと舌打ちを鳴らした。

ひとしきり笑い終えた芽依は泰紀の方を向き直る。
座っていたため、見上げるような形ではあったが。



「んでオマエ、緊張解けたか?」


「え?ああ、そういえば」


笑ったからか、胸のつかえはすっきりとしていたように感じる。



「なら、よし」



瞬間、泰紀が青空を背にとびきりの笑顔を見せた。

思わず見とれてしまうほどの、優しくも強い笑み。



それは芽依一人に注がれて。



「───え」



「ほら立て。もうすぐスタートだ」