「ブサイク!」


「バカ!」


「怪力女!」


「黙れ車オタ!」




始まりのピストルはいつも唐突に。





***



「ねぇ、芽依ちゃんと島井って仲良いよね」


芽依は口に含んでいた卵焼きを、思わず吹き出しそうになる。

「だよね、島井のこと好きなの?芽依ちゃん」


昼休み、お弁当、女子同士のお喋り。


「っ!!そんなわけ無いじゃん!島井とかマジ有り得ない!」


黄色いカーテンの揺れる校舎の窓からグラウンドが見える。

男子が学年でサッカーをしているようだ。

その中でも、前衛でボールを運んでいる一人の男子の姿を思わず芽依の目が追った。



島井泰希[シマイヤスキ]

中1、13歳。誕生日は9月24日の天秤座。
所属は陸上部。

いつから話し初めたかは覚えていないが、二学期の席替えで隣になった瞬間


『うわお前かよ!』


と開口一番言われた記憶がある。
それ以来、事あるごとに口喧嘩をしては、担任の先生にまで目を付けられている。

口が悪くて嫌な奴。天敵。

―――と芽依は捉えていたのだが。



「えー!島井って結構カッコイイじゃん」



くっきりと綺麗な甘過ぎ無い二重に、長めの睫
それに少しかかるくらいの黒髪を無造作に散らして。


「そうだよクラスの女子も何人か好きな子居るみたいだし!」

形のいい眉と鼻。
やり過ぎ感が無く、センスのいいオシャレ。


「この前、陸部の金子さんが告って振られたんだって!」


「はぁ?!アイツを好きとか超物好きじゃん!てか島井が女子振るとか何様!」


「…動揺してる?」


「してないってば!!」


「でも、島井は絶対芽依ちゃんのこと好きだよね」


「うんうん、芽依にばっかずっと突っかかってるし」


「だから有り得ないって!」


思わず席を立ち上がると、セーラー服のリボンが揺れた。


「私、トイレ!」


いきなりの行動にきょとんとした二人は、そのまま教室を後にする芽依の背中を眺めた。



「芽依ちゃん、怒ったかな?」


「大丈夫でしょ。多分」