あの日の事は誰も語ろうとはしない。本当に誰も知らないのか。それとも誰も口にしないだけなのか。時間が経つにつれて傀楼殿の記憶すら世間では風化してった………。


「お前怪我してんだろ?」
「………誰だテメェは?」
「ちょっと見せてみろよ」
「おい!勝手に触んなよ!」
「はいはい。悪かったな。お前達みたいなストリートチルドレンがヴァリーフォージの人間嫌ってるのはわかってるよ。でもさすがにその傷はほっといたらヤバいよ?」
「………医者か……」
「うーん……。まだ医者ではないな。養成所に通ってる段階だから」
「興味ねぇな」
「だよね。……はいできた。最近この辺は物騒だからな。気を付けろよ」
「最近は?いつだって物騒だ!お前みてぇな坊ちゃんの方がもっと気を付けた方がいいんじゃねーのか?……気安く声かけると絶対いつか殺されんぞ……」
「大丈夫。声かける時はちゃんと人選んでるから」
「………どこがだよ……」
「俺はアレクト。お前は?」
「………なんでいちいち名乗らなきゃなんねーんだよ!?」
「あー!わかったわかった!まったく気が荒いねぇー!じゃーね、ゼファ」
「なんで…………。俺、今名乗ったか……?」


ストリートチルドレンの俺。ヴァリーフォージの坊っちゃんのアレクト。 初めて会ったのは13歳の時だった。あの頃は殺しも強奪も普通だった。そんな毎日だから怪我だって普通だった。暴動ばかり起こるストリートでの生き方もだいたい覚え、特に金には困っていなかった。


「あんだけ気を付けろって言ったのに………」
「またお前かよ」
「仕方ないだろ?通り道なんだから」
「………。お前なんで俺の名前知ってんだよ?」
「え?だって君結構有名じゃん!腕の立つ子供って!」
「知るかよッッ!」
「……いつか工作員からお呼びがかかるかもな」
「工作員?」
「ヴァリーフォージの軍の一部。存在自体が隠蔽されてる名も無き少数部隊。世に必要ないと判断された人間や建造物、異端な生き物を全て消してしまう事を主に仕事にしてる奴等。所謂諜報機関だ」