母が神楽に何か言おうとした時だった。


ギャ―――――――――ッッ!


「………ッッ!?」
「母ちゃん!」
「神楽!いい?出てきていいって言うまでここから出ちゃダメよ!?わかった!?」
「待って母ちゃん!どこ行くんだよ!」
「いいから言う事聞きなさい!」
「母ちゃんッッ!」
「……必ず迎えに来るから」


そのまま空気の薄い地下の隠し扉の中に神楽は閉じ込められた。 外の様子もわからない。音も聞こえない。 さっきの叫び声はなんだったのか? 母は何故自分をここへ1人閉じ込めたのか?一体何が起こってるのか?理由も何もわからないまま2日くらいその場所にいたが、母も誰も神楽を迎えには来なかった。


「母ちゃんの嘘つき……。迎えに来ないじゃないか!俺腹減った!家庭教師サボッたからおばちゃんにも怒られる!もう諦めた!出てやる」


怒られるであろうと覚悟をして頭上にある扉を開けた。鉄製で子供には開けるのは困難なはずだが神楽のバカ力では簡単に開いてしまった。


ガタンッッ………… 。


最初に見たものは遠くで光る繁華街のネオンだった。家の中にいたはずなのに。恐る恐る視線を自分の周囲に落とすと焼けた木片があちこちに転がっていた。


「なんだよ………。なんで家がないんだよ?父ちゃん……。母ちゃん……。ねぇちゃん……。漣……。おじちゃん……。おばちゃん……。みんなどこ行っちゃったんだよ」


神楽はしばらくその場から離れる事ができなかった。幼いながらも 自分が置かれている状況をなんとか把握しようとしていた。


心は空っぽで、涙は音もなく静かに流れた。それに連動する様に焼け跡に残された桜も悲しく花びらを落とした。


「……よぉ……桜…。残ったのは俺達しかいねぇのか……?お前はここで何があったのか見てたのか……?教えてくれよ……………みんな…、死んだのか………?」