楓は今までみた夢を全て反芻したような気がした。14年分の全ての夢を。
遠くで幽かに聞こえる歌が僕の記憶を優しくすくっているような感じがする。
その記憶のなかに、僕の闇がまじっていた。
僕がまだ6歳だったときの、夢……。

僕には幼馴染で親友の女の子がいた。
憶えているのは幼稚園児だったころから、小学1年生の夏まで。
憶えている記憶よりも長く一緒にいた親友で、淡い恋心さえいだいていた。
架南。口調は冷たいけど、優しくて、聡明で、およそ子供らしくない表情を見せる、過去の思い出にしかいない人。
小学校にあがって初めての夏休み。架南と近くの人気のない倉庫で遊ぶ約束をしていた。
だけど、僕はその日、何かがあって、約束に遅れてしまった。
慌てて約束の場所にいくと、架南はまだそこにいた。いたけど……僕は、その時何を見たか、今でも鮮明に覚えてる。それを見たとき、僕は頭に血が上って、ころがっていた鉄パイプを持って駆け出していた。鉄パイプの重さなんて、あまり感じていなかったほど、そのとき僕は激昂していた。
架南はいた。しかし、見知らぬ男もいた。何をしていたかなんて、そのときの僕
は知らなかったけど、架南の服装は乱れていて、架南は男を拒絶していた。男は架南の腕を掴んで離そうとしていなかったし、なにより僕は架南があんなに感情を高ぶらせていた所を見たことがなかった。
僕は手にした鉄パイプを思いっきり振り下ろし、男が骨の折れる激痛に絶叫を上げている間に架南の手を取りそこから逃げ出した。
架南はボタンの外れた服をしっかりと掴みながら僕についてきた。
人通りの多い場所まで逃げてから、僕は右腕に鈍い痛みを感じた。
「架南……」
僕は架南を抱きしめて泣いた。わけもわからず、怖くて泣いた。
道行く人が僕たちを見ていたけど、僕たちはそれを全部無視した。
架南は何もしゃべらなかった。ただ、そこにいるだけみたいに、幻みたいに消えてしまいそうだった。