「返して!楓くんを返して、フウ!」
「だめ、だよーウタちゃん。今の君は楓くんには危険ですから」
「こ、こーか、こーか、ちゃん、き、気持ち、悪ぅ……うぅ」
「……お、落ちる、落ちる!光華…さん、危ない……!」
揺れる。
あの後、幻歌はいきなり飛んできて僕を捕まえようとした。
それを光華がひらりとかわし、それがきっかけで地獄の鬼ごっこ、というわけだ。
咲良はともかく、僕は光華の腕(しかも一本)に支えられているだけなのでぶらぶらと揺れる揺れる。
それにしても、光華は幻歌の攻撃をことごとくかわしている。
かすりもしない。
僕ら兄妹を抱えながら手ぶらの幻歌と互角以上とはすごい。

「じゃなくて!幻歌!いったいどうしたんだ……」

「羽化、ですよ」

光華がつぶやく。

「特別な詠い人、カンタンテ。ウタちゃんは、今までなりかけの幼生でしかありませんでした」

幻歌の攻撃は止まない。そのうち一つを旋回してかわした光華は元来た道(?)を戻る。
幻歌は意表をつかれて、一拍遅れてついてきた。
少し離れてしまったので、幻歌は光華に攻撃することができない。

「カンタンテの幼生は、人に名前与えられたとき、羽化するんです。完全な、カンタンテとして」

「それでなんで俺たちに襲い掛かってくるんだ?」

「今のウタちゃんは羽化の衝撃で理性がなくなって、本能だけで行動しています。だから、今、楓くんをウタちゃんに渡してしまうのは危険なんです」

「な、んで?」

「ウタちゃんはおそらく……











全てを、思い出してしまったのでしょう。架南としての、記憶を」