「幻歌、幻歌!」
呼びかけても幻歌は目覚めない。
ただときどきつらそうに身体をよじるだけだ。
「どうしたら……」
だれか、助けてくれないだろうか。この際咲良でも――
「お兄ちゃーん!!」
「え゛」
咲良の声がした、と思ったら、その瞬間、僕は空にいた。
「--!!」
ちょっとどころじゃなく、めちゃくちゃ怖い。
たかい、高いよ、木がもう優に10メートルは下にあるよ!?
「お兄ちゃん、心配したんだよ、お……ちょっと聞いてるのお兄ちゃん!?可愛い妹が心配して探しにきてやったのに聞いてんの、お兄ちゃん!!」
「あ……さ、さく、ら?」
「何呆けててんのよ!詠い人なんてお伽話みたいなのに平然と関わっておいて、私がいるのがそんなにおかしいの?珍しいの!?」
「咲良ちゃん、人格変っていますねえ……。今までのは借りてきた猫みたいなものだったのか、それともお兄さんにはよっぽどなついているのか……」
え、誰、この妙に綺麗な変な人。って、今、咲良……。
「詠い人のこと、知っているのか、咲良……」
咲良はそこでようやく怒りを静めて笑った。
「うん。私を助けてくれた、こーかちゃん……この人も、詠い人なんだって」
そこで、新たに登場した詠い人は、耳慣れない言葉を呟いた。
「正確には、ウタちゃんも、私も、詠使いなんですけどね」
「ウタツカイ?」
「正式には、カンタンテ。歌い手という意味です」