ある程度走ったところで咲良は足をとめた。
「あれ……」
少し遅れていた光華が足を止めた咲良の隣に着地した。そして誰に言うでもなく呟いた。
「ふむ……。崖ね」
おかしいな。やっぱり、勘なんて役にたたないのかな――
「あれ、帽子発見。誰かがここに来たんですかね」
「え……こーかちゃん、それ……」
お兄ちゃんの。
どくん、と胸の鼓動が身体に響いた。
咲良は光華から帽子をひったくった。
裏には、K.T、高里楓のイニシャル。
咲良は崖を見た。不自然に、一部が崩れている。
まさか。咲良は崖の淵から下を除いた。
せいぜい、家の2階から程度の高さ。
でも、危険なのには変わりない。
だけど、崖のすぐ下にはだれもいない。
「よかっ――」
「……あれ、ウタちゃん」
光華が、無機質な声で小さく、なにかを呟いた。
そのとき、咲良は見た。
光華と同じ外套を着た子を追いかけるように、男の子が走っていくのを。
「お、お兄ちゃん!!」
咲良の叫びは楓の足を止めることができなかった。
咲良は崖の淵で、ぼんやりと崖下の兄が消えた広大な暗い森をぼんやりと見つめていた。