「いま何て言いましたか」

コートも脱がずに立ち尽くした彼が、私に向かって聞き返す。

「何度も言わせないで下さい。」

スイートルームのベッドの上で膝を抱いたまま、私は淡々と答えた。


「抱いて下さいって、言ったんですよ。」


臆さず繰り返す私に、彼の眉がぴくりと揺れた。


「…どうかしてますよ。さっきのメールといい、そんな事を言うなんてあなたらしくない。」

よく言うよ、高校生だった私を愛人にスカウトしておいて。

「さっきメールした通りです。じゃないと私、龍太郎さんの愛人やめようと思ってます。」
「ちょっと待って下さい。」

珍しく焦りを隠しもせずに、彼は私に歩み寄ってベッドの脇にひざまずいた。

「今社長から離れられては困ります。
一体何があったんですか?」


「あなたを好きになりました。」


今度こそ本当に、彼は大きく目を見開いた。

あぁ、見たかったんだ。こんな表情が。