「聞いてる・・・?」

男の子はそう言って顔を近付けた。

私は慣れていない事に顔がカアーっと赤くなる。

男の子はそれに気付いたのか、私から少し離れた。

そして黒い折りたたみ傘を手渡した。

私は傘を見つめる。

男の子は笑って言った。

「それ、使いな。俺平気だから。」

「え!い・・・いいよ!なんか悪いし。

 それにあなたが濡れちゃう。」

私は男の子に傘を返そうとする。

「いいよ。俺はホントに平気だから。

 傘も返さなくていいよ。じゃあばいばい。」

そう言って走り去ってしまった。

・・・本当に行ってしまった。

男の子は大丈夫なのかな?名前は何て言うのかな?

もし同じクラスになれたら傘を返して、お礼を言いたいな。

そしたらまた笑ってくれるかな?

あの素敵な笑顔で。

私は黒い傘を差して花咲高校の入学式に向かった。

高校に着いて、自分のクラスを確認してから教室に向かった。

私の席は真ん中の一番後ろの席だった。

私はそこにゆっくりと腰をかけた。

周りを見てみると、結構皆集まっていた。

どうやら私は時間ギリギリに着いたみたいだった。

私は安心して息を吐いた。

だけど私の隣の席の人はまだ来ていないみたい。

・・・休みかな?それとも遅刻かな?

そんな事を考えた。

それと同時に、朝に会った男の子の事を思い出した。

そういえば、私が今ここに座っていられるのもあの男の子のおかげなんだ。

男の子も大丈夫なのかな・・・。

傘が無くて困っていたりしないかな?

私には平気って言ったけど・・・。

本当は違うのかもしれない。

私はだんだん不安になってきて、手から汗が出てきた。