毎度の事ながら、今日もまた厄介ごとが嫌でもふりかかってきた。
 
 
「ロインっ!!おいロイン!!こっち来てみな」
 
 
いつもよりざわつきのある店のカウンターから鯰(なまず)の魚人が俺を手招きしている。
 
 
「なんでぇ、おっちゃん。小声のつもりかもしんねーけど普通にデカいぜ、おっちゃんの声」
 
 
魚人という種族の体つきが元からでかいためか、押し殺した声ですら普通の人間のしゃべり声と同じだったりする。
 
 
ちなみに、魚人の普段の声はテンションが上がりすぎた人間並にでかい。
 
 
鯰のおっちゃんは無言で俺に酒をつぎ、
 
 
「出たんだよ」
 
「何がよ?」
 
 
おっちゃんはさらにさらに声を小さくして言った。
 
 
「Sランクの依頼のよ、“天空龍”ヴァルハイドの討伐を請け負った奴が」
 
「ぉぶふぁふううぅぅぅ!!」
 
 
思わず口に含んだ酒をおっちゃんに吹き出してしまった。おっとすまねぇ。
 
 
「マジかよ!?」
 
「マジなんだよ」
 
 
酒でぼとぼとになった顔を服の端で拭きながら、興奮を抑え切れずに笑いがこぼれるおっちゃん。
 
 
「どこの物好きがその依頼引き受けたんだよ?」
 
 
問う俺におっちゃんは答えず、ただ指を店の隅に向けるだけであった。