薔薇の眷属

「いつまで寝てるんですかー!!」
「うわっ」

いつの間にか眠りに落ちていたようだ。
大声に驚いて飛び起きると、目の前にはヤモリがいた。

「うわっ」
俺は二度目の奇声をあげた。
周りを見回すと、だだっぴろい空間にアンティークの家具、大きな窓、そしてフライパンとおたまを持った細身の顔色の悪い青年、それらが目に飛び込んでくる。

アイさんはまだ布団に潜りこんで「あと10分~」などとお決まりのセリフを口走っていた。
するとヤモリは容赦なくフライパンを叩き鳴らした。
「ぎゃっ!!」
耳慣れない騒音で低血圧のアイさんも飛び上がった。

「もう7時ですよっ!一体何時間寝るんですか!」
9時間も寝ていたのか。
どうりで体がすっきりしているわけだ。

アイさんはヤモリの言葉には耳を貸さず、俺と同じように部屋をひととおり見渡して、昨日薔薇の館に潜りこんだことが紛れもない現実だと思い知り落胆していた。

「早く顔洗ってきてくださいね。朝ごはん出来てますよ」


言われた通りに下へ降りると、ガクとニューロンはすでに活動を開始していた。
「洗面所、向こうやで」
ニューロンに言われた通り、廊下を二人して進んだ。
時々現れる窓から差した光が、家中を明るく照らす。
昨日とはうってかわっての晴天だ。

昨晩は暗くてわからなかったことだが、館の中は隅々まで掃除が行き届いていて、不気味とは到底思えない。
こりゃ心霊スポットってのは全くのでたらめだろうなんて俺は勝手に考えて、心の中でニューロンを嘲笑った。

アイさんももう恐怖心はなくなったようで、好奇の眼差しをそこかしこに向けていた。

「あ、おはよう」
「……オハヨウ」
借りたタオルで顔を拭いていると、ローズが通りがかる。
朝でも陰気だ。

改めてまじまじ見ると、本当に人形のようだった。
どこをとっても恐ろしく均整がとれている。
その上誰の趣味なのかゴシックな服を身につけていて、座っていたら人間とはわからなそうだ。

「おはよー」
アイさんも顔をのぞかせて笑っていた。
「行こっかー。お腹空いたし」
「うん」

ローズは人見知りをしているのか、あっという間にいなくなっていた。
「早い……」