大学には、色んな場所から色んな人間が集まってくる。
地方の小さな学校も御多分に漏れず、俺以上に変わった奴なんてそれこそ掃いて捨てるほど……とまでは言わないが、とにかく結構いた。

変わった奴の中に身を置くと自分も普通に見えるらしい。
ありがたいかどうかは判断しかねるけれども、以前のように集団の中で一人孤独に弁当を食べるような事態には陥らなかった。

もちろん俺の努力もある。
極力「俺」とは言わないようにしていたし、レズであることも一部の人間にしか口外していない。

適当に勉強し、適当にサボる。
時たまサークル仲間とやんちゃもした。

今まで部活動も委員会活動もしたことがなく、協調性皆無の評価をくらった俺が、何を思ったか大学に入った途端サークルに所属したのだった。

きっかけは一つの出会いである。
一人の人間、しかもとびきりの変態との記念すべきファーストコンタクトは、新入生歓迎会のさなかであった。

「肩になんかついてるよ」
同じく新入生であろう男性に唐突に声をかけられて、俺は一瞬身をすくませた。
黒々とした髪で、眼鏡をかけたそいつは、少し大人びた雰囲気を持っていて、同時に何か冷たい空気を全身に纏っているみたいだったのをよく覚えている。

俺が怪訝な顔で肩に触れようとすると、
「違う」と静かに制止した。
ますます胡散臭くなって彼を見れば、自分の鞄のポケットをまさぐっている。
何が出るのかと身構えていると、白い粉を振りかけられた。

塩?
俺は呆気にとられていたが、彼の方は満足げに口の端を上げている。
「もう何も憑いてないよ」



この男はいわゆる「見える」体質なのだった。