薔薇の眷属

ガクがモスキー達と談笑している。

「なんの用事でこんなへんぴなところへ?」
「さっきサークル活動がどうのとか…」
「うん。心れ」
「あのっ!私たちえぇーと、古い建物を探そうっていう趣旨のサークルで!」
アイさんが大声を張り上げガクを阻止した。
正しい判断だろう。
自分の住んでいる家が心霊スポットだなんて言われていい気持ちがするはずはない。
アイさんは別の危惧をしていたのかもしれないが。

ニューロンはさっきまで散々吐きそうだという仕草をしていたくせに豪快な食べっぷりだった。
やけになっている。

「冷蔵庫もないですからね。不便ですよぉ」
ガクとヤモリが昔の人はどうやって食べ物を保存していたんだろうねと真剣に話していた。

俺は唾を飲み込むと、声を絞りだした。
「コトリさん」
緊張で上擦るのが恥ずかしい。
コトリさんはもう驚かなかった。
相変わらず笑っていた。
「あの」
声を聞かせて欲しかった。
「さっきはすみません」
アイさんの言ったことと自分の行動について謝ったつもりだった。
コトリさんは一度キョトンとして、すぐに笑顔に戻ると、おもむろに俺の手を握り首を振った。
「コトリは歌うことは出来ても喋ることは出来ない」

頭を殴られたようなショックが俺を襲う。
信じられなくて、苦々しく吐き捨てたモスキーを見つめた。
前髪に隠された顔から表情は読み取れない。
目の前にいるコトリさんは、困った様子で、それでも笑っていた。


外では稲妻がうねっている。
雨も窓をせわしなく叩いていた。
「今日は泊まるといい。客間があいているから」
「では掃除をして参りますね、モスキー」
食事の後片付けをして戻ってきたヤモリは、またすぐに食堂を出ていった。