坂を登る。自転車のハンドルを掴む手に力が入って、身体全体に風が当たる。



心地良い春風。どこかからか来た桜の香にさらに胸が弾んで、少しスピードを上げた。





辿り着いた広いグランド。周りを囲むいくつもの桜の木が、蕾を大分膨らませて身を淡いピンク色に染めていた。





[カシャ]



首に掛かったカメラで、お気に入りの風景にゆっくりとシャッターを下ろしてく。



眠たくなってくる調度良い日差しに、静かに瞳を閉じて小さく深呼吸をした。





瞳を開けて辺りを見渡したら、目が合ったいつものおばさん。



「今日は良い天気だね」

『そうですね』



私には気持ちの良いこの日差しも、ランニングをしてるおばさんには少し暑そうだった。





雲一つない青空。まだほんの少しだけ冬の気配を感じさせるツンとした空気。



私はこの季節が一番好きかもしれない。





『kっしゅ』



この花粉症さえなければ。



[ミャ〜オ]



あっわからない。今のくしゃみはいつも通り挨拶に来てくれた猫のペロのせいかもしれない。



しゃがんでペロの視線に合わせる。



『ペロ?私猫アレルギーなの。前にも言ったよね?』



そう言うとペロはいつも首を傾げる。



『わからない?』

[ミャ]

『そっか、わからないか』



本当に私の言葉わからないの?って聞きたくなる程正確に相槌を打ってくるペロに、いつも感心する。



自分が猫アレルギーなのは十分わかってるけど、自分が猫好きなのはもっとわかってるから。



だからいつもペロのあごへ手が伸びる。



こうやって目をつぶって首を伸ばして本当に幸せそうな顔をするから、こっちまで幸せになっちゃう。



やっぱり何度見ても可愛いいや。



『ん〜ペロっ、その顔!その顔のままね?』



[カシャ]





そんな何でもない休日の昼下がりでした。