短編小説集




突然、彼の姿が霞んだ


舞い散る桜も霞む


「泣くほど嬉しい?」

「...バカじゃないの」


クスクスと笑いながら、彼は私の頭に手を置いた


「約束した訳じゃないのにね。ここで、こうやって再会できるなんてすごくない?」

「うん」

「もしかして、待っててくれた?」

「そんなわけないじゃん。ただの偶然」


自分で言ってから思った


ただの偶然、その方がよっぽど奇跡に近い


「運命ってことか」

「クサイ」


二人で笑った


別れていた時間などなかったかのように、私たちは笑った


「ばいばいって言って別れたのに、なんとなく、キミは俺を待っていてくれるんじゃないかって、ずっと思ってた。だから帰ってきたんだ。そしたら本当に会えた。運命だとしか思えないよ」


少し興奮ぎみに捲し立てて、ふわりと私を包み込む腕


運命なんて、そんなもの私は信じない


それでも彼と再会できたことには何かを感じずにはいられないのも事実


「おかえりなさい」


彼の背中に手を回しながら呟くように言うと、ただいま、と小さく返される


桜が苦手だった


でもこれからは、毎年一緒に此処に来よう


きっと素敵な想い出になるから


end