「言えるわけないよ」


呟いた声は小さかったけれど、彼はしっかり拾ったらしい


整った眉が、中心に寄る


「なんで」

「だって、美咲さんが」


自分で言ったのに、こんなにも胸が痛むのか


もう一年も経つのに、想いは全く薄れてくれない


「美咲はわかってるから気にする必要ないって」


美咲さんはわかってる


私と彼が所謂幼馴染みであって、現在も近所に住んでいて、兄弟のように仲が良いと言うことを


でも美咲さんは知らない


私が何年も何年も、報われない想いを抱いていることに


「でも嫌がるでしょ?幼馴染みとは言え、彼氏が他の女と会ってたら」

「結局会ってんだから同じだろ」

「そうだけど、理由があるのとないのでは、違うじゃん」

「なんだよそれ。理由がなきゃ、俺達会っちゃいけねーの?」


訳がわからないと言いたげな彼の視線から私は逃げることしかできない


強い、風が吹いた


封を切っていないスティックシュガーがテーブルから落ちてしまう


私も彼もそれを目で追うだけで、手を差し出すことはしなかった


「美咲さんが、すき?」

「は?好きじゃなかったら付き合わねーだろ」

「じゃあ私は?」

「...嫌いだったらわざわざ来ねーよ」


好きだとは、言ってくれない


彼の優しさが胸を抉る


季節は、春


まだ私の片想いは、終わりそうにありません


end