いつもは子供みたいな人なのに


いつもは子供みたいな人だから


たまに真剣な顔をされると困ってしまう


たまに大人の顔をされると困ってしまう


「結婚しような」

「...はい」

「手、出して」


意味を汲めずに固まっていると、先生の手が私の左手を優しく掬い上げる


温かくて大きくて、私を安心させてくれる頼り甲斐のある手


細かい作業が苦手だとか言うくせに、ピアノを弾くときは流れるように柔らかく動くしなやかな手


私の大好きな、手


「え、なんですか?」


手を繋いだまま片膝を着く先生に、焦って立ち上がってしまう


でも先生は手を離してはくれなくて


ポケットから取り出した小さなものを、左手の薬指に通す


シルバーに輝くリング


小さなダイヤが埋め込まれている


「結婚しような」


何回言うんですか、そう言いたかったけど、声を出したら泣き出しちゃいそうで


だから私は何度も何度も頷いた



今日でこの学校とはさよならだけど


先生とはこれからも、ずっとずっと


さよならなんて、しなくていいんだね


「好きです、先生」

「知ってる...俺も好きだよ、夏乃」

「...知ってます」


結局涙は流れてしまって、立ち上がった先生がそれを拭ってくれた


楽しいことばかりではないと思う


幸せなことばかりではないと思う


それでもこの手が、不安まで一緒に拭ってくれる


だから私は、怖くないよ


誰になんて言われたって、ずっと先生と一緒にいるから


end