青年はカウンターに座り、
「マスター、ホットコーヒーちょうだい。」

と言い、タバコに火をつけた。

店主は

「かしこまりました。」

とペコリとお辞儀をして、コーヒーを煎れ始めた。

…………………………。

時が止まったかのような沈黙がしばらく続いた。

「はい、ホットコーヒーです。まだ雨は止まないようですからゆっくり身体を温めて言って下さい。」

沈黙を破ったのは店主だった。
そしてその温かい言葉に青年は感激した。

「ありがとう。マスターはええ人やなぁ。東京来て初めてええ人に会うたわ!
俺、海藤 渉(かいとう わたる)言います。マスター名前は?」

急に積極的に話しかけてくる海藤に店主は少し戸惑った表情をしたが、直ぐ様、笑顔で返答した。

「僕もワタルです。浜野 航(はまの わたる)って言います。よろしく。」

二人のワタルはこうして運命的に出会った。

しかし、これは後に訪れる悲劇の序章だった…