海藤が店を出ると、尾藤は安堵の表情を浮かべソファーに疲れきったように座り、口を開いた。

「やられたな…。まさかここまでの男だったとはね…。」

浜野はその言葉の意味が理解出来ず、首を傾げながら尾藤に聞いた。

「やられたってどういう事ですか?確かに記者って言う嘘はバレたみたいですけど…。」

「それだけじゃないよ、ワタル…。おそらく私が“ゾディアック”のメンバーだという事もバレたよ…。海藤は“俺の思った通り嘘が下手やな”って言ってたろ?あいつは私のクセを見破ってたんだよ…。」

そう言った尾藤は悔しさと怒りが顔から滲み出ていた。

浜野はそれを見てゾッとした。

「び、尾藤さん?大丈夫ですか?」

恐る恐る浜野は聞いた。

すると尾藤は浜野をキッと一瞬睨んだ。
しかし、すぐさま目元を緩め、

「大丈夫だよ。」

と答え、タバコをくわえて話し続けた。

「さすが詐欺師って感じだったな…海藤渉か…。
一目見ただけで私のウソをつく時、口元が弛むクセを見破るとはな…。
コーヒーで隠してたんだがな。ヤツには見えてたんだな…。」

そう言って尾藤は自分の右にあるウォールミラーを指差した。