大きなモミの木の下に居た。
闇に浮かぶ、ゴミ粒のような、
綿屑のようなものは雪らしい。

手には赤いリボンで封がされた、
深緑と萌黄色のストライプで彩られた
ペンケースほどの箱。

実際中身は万年筆だ。
それは知っていた。

なんとなく首を巡らした向こうに、
『12月24日 22:13』
とオレンジ色の電光掲示があった。

どうやら、待ち合わせをしていたらしい。
相手は…

相手は、そう、初めての彼女。

「名前は……?」
後藤は思わず呟いていた。
今は、1999年のはず。
恐怖の大王は来なかった。
21世紀はあと2年後。
Y2K問題は悪魔来襲より性質悪そうだが、
学生の彼には関係ない。

おかしい。思い出せない。
手にあるギフトの包みをもう一度見た。
なぜ指輪じゃないのか?
ポケットを探る。
証拠を突きつけるように、
ポケットの中に小さく硬い箱がある。
「なんだ…」
言いかけて、押し黙る。
「知らないぞ…」
今いる場所。年月日と時刻。
大きなクリスマスツリー。

それら全てを【推理できる】が、
【経緯は知らない】。

バタバタとポケットを叩き、
斜めに掛けた鞄を開けて探した。
引っつかんだパスケースには、
『後藤成実』
ほっとするのと同時に、
言いようのない違和感が沸き起こる。

僕は、本当に後藤成実でいいのか!?

そう思いこみたい、
今見える状況から判断できる自分を、
自分の今をそのとおりだと思いたい。
今は、1999年12月24日…
僕は?なんのために?どうして?

「おい!」