「…………え?」


目を見開いた男の顔は、昨日よりずっと至近距離にあって。


「……あ゛ーーー!!」


そう。見間違えるはずもない。昨日、自分のことを悪魔だと名乗った黒装束の男。それが目の前に立って、こっちを見ているんだから。

いつ?
一体、どうやって。
昨日と同じように、男は音も気配もなく突然そこにイる。

なんで。


「なんでまた……だって、ちゃんと……。」


男は男でブツブツ訳の分からないことを言っている。

ざわざわ。耳を掠めた雑音に、私はハッとした。教室中が私たちに注目している。そうだよね、ここは学校。不審な男が侵入すれば、大騒ぎになることは必至。


「楓、どうしたの……?あの、ほんと、ごめんね……」

「は?」


時子の言動に、目眩を覚えた。

まるで、男のことが見えていないような。

教室中を飛び交う会話に耳を澄ませてみても、皆いるはずのない男がいる事にではなく、私が発した大声に驚いている。

……マジで?

いたたまれなくなって、咄嗟に教室を飛び出した。恥ずかしい!すれ違った次の授業の先生が何か言っていたけれど、気にせず、屋上への途を一気に駆け上がった。