「だれが?」

「僕が」

「見えてる」

「……あー。」


あー。って。納得してるというよりは、頭の中がよく整理できていないような返事だった。見えてる……?普通の人間が言うようなことだろうか。やっぱり、幽霊……?

そんな思考を繰り広げていると、男は急に何かに気づいたように、あっ、と声をあげて、慌てだした。


「ぼ、僕は怪しい者とかでは決してなくて……!」


うん、説得力ゼロ。だってここは浴室で、私は裸で、こいつは男でしょ。……はだ、か?


「………!!」


急に冷静になったのかはたまた逆か、とにかく私は自分が裸で男と向き合っている状態に混乱してしまって、近くにあったタオルをとって体を覆った。それでも多分ほとんど見られたんだろうなと思って、頬が紅潮するのを感じながら男を睨みつける。


「……どうやって入ったんですか」

「……えと、」


言いにくそうに頬を掻いて目を逸らす男に不信はどんどん高まって、警察、という単語が頭に浮かぶんだけど、生憎男は浴室から出るドアのすぐ横に立っていて、逃げられそうにない。

あれ、これ、まさか、ピンチ……?


「……信じてもらえないと思うんだけど……」


囁くように小さな声を私の耳はキャッチして、その後の言葉に集中した。





「…僕、悪魔なんだ」