「……天使」

「今日で一週間か。確か、浴室で会うたんやっけ?なら、今夜までやな」


天使はポケットに手を突っ込んで、校舎の時計を見上げた。
8:35。何処にいるかも分からない悪魔を見つけ出すには、多分残された時間は少なすぎる。


「天使、悪魔の居場所知らない?早くしないと…!」

「悪魔んとこ行ってどないすんねや?」

「どうって……」

「知っとるか?悪魔はな、別に自分が見られた相手と契約せなアカンって決まりはないんや。それに、本人の同意も要らん。せやのに、あいつ待っとった。その気になればそこらへんの奴捕まえて強引に契約結ばすことも出来たのに、あいつは自分の命よりお前を、お前の気持ちを一番大事にしとった」


『君が好きになったからなんだ』


っ……。
勝手だったのは私だった。
悪魔は、私を好きだって言ってくれたのに。
守るって……言ってくれたのに。

頬を濡らす涙にも気づかないで、私は精一杯の大声を出した。


「悪魔あああーー!!!」


お願い、お願い。
どうか、悪魔に。
届いてください――。


「……楓……?」


固く瞑った目をゆっくり開くと、ぼやける視界の中で、真っ黒い格好をした男が、確かに目の前に立っていた。