学校に着くと教室はいつもと同じように賑やかで、私は少し安心した。自分の席につくと、既に隣に座っていた時子が顔を上げた。


「おはよ、楓。」

「おはよ」


悪魔との契約を断ってから、五日が過ぎていた。
悪魔はあれから一回も現れない。天使もだ。
勝手に現れて、勝手に消えて。なんなのあいつら。

ああぁー。机に突っ伏して両手を伸ばした。関係ない。もう現れないってことは、もう会わないってこと。もう会わないってことは、もう私には一切関係のないこと。うん、そうだ。気にすることなんてないの。私はまた平凡な生活に戻るだけ。それだけのこと!


『契約しなければ、消される』


頭に浮かんだ悪魔の言葉に目を開く。


『陰湿で、残酷な……』


関係ないっ。
言い聞かせてみても、何故か机から立って、走り出してる自分がいて。

あーもう!
こんなんじゃ、ろくに授業も受けられないじゃん!

外に出て、校庭を校門に向かって走りながら周りを見渡す。悪魔、アクマ。あいつは何処?


「遅いんちゃう?」


反射的に声がした方に顔を向けると、そこには見覚えのある顔があった。ぴたりと、足を止める。