「………………………………はぃ?」

「だから、左目を」

「あーはいはいそれは聞いたから。だから、その、私が言いたいのは、」


すう、と空気を吸い込んで、


「誰がやるかバカぁああぁあ!!」


一気にその場から駆けだした。

な、何あいつ。ほんまもんの馬鹿だ。阿呆だ。「左目頂戴」「うん良いよ」で済むとでも思ってたのか?目なんてな、二つしかないんだぞ!悪魔なんかにやれるかあ!!


いつの間にか家の前に着いていて、息を整えてから玄関に通じるドアを開けた。

リビングを覗いても誰もいない。ああ、早退したんだっけ。全く、あの悪魔の所為で、ろくなことがない。


「走って疲れた……シャワー浴びよ」


部屋から着替えを持ってくると、制服を脱いで浴室へ入った。
頭からザァー、とシャワーを被ると、少し頭が冷えた気がした。勢いで断ってきたけど、悪魔は言ってた。一週間以内に契約しないと、消されるって。それって、死――

カタン。

窓の方で音がした気がして、右目をうっすら開けて見やる。そこには何もなくて、風か、と向き直った。その時。


「はあ~。なるほどなぁ、こいつが」