平和な生活を送って

平和な生活を望んで

平和な生活に憧れて

平和な生活に満足してた。


「…………だれ?」

「…………あ」


なんにもない、いつも通りの平凡な一日だった。
そして一日の終わりも平凡なんだと、確信してた。
田宮楓、17歳。
いつもと同じ手順でお風呂に入って、一息ついて。
髪を洗って、濡れた顔をタオルで拭った時。
顔の右側はまだ濡れていて、それを当たり前に拭こうと、何気なく目の前の鏡に視線を移した。

っ。

鏡の端に、……黒い、何かが映っている。一瞬背筋に悪寒が走って、恐る恐る振り向く。


そこにあったのは、全身黒装束で、左目が髪で隠れている、すらっとした男の姿で。

……幽霊?いや、足あるし。


「…………だれ、?」


口をついて出た言葉に、直後後悔した。そもそも冷静に考えてみれば、お風呂に私裸で異性がいるのは異常だし、だいたい自分の家に知らない人がいるのはおかしいし、そんな人に「誰?」って普通に質問しちゃうなんて私どうかしてるんじゃないか。

その男はどこか明後日の方を見ていたらしく、私の言葉にハッと気づいて視線がかち合った。息をのむ。


「…………え、見えてる……?」