「一本!」

柔道場に響き渡る歓声。

「キャー!渚様ー!今日もカッコいいー!」

「ありがとう!」

女子に向かって軽くウインクすると、女子の歓声が高くなる。

私、石川渚は、杉皇高等学校2年生で、女子柔道部員。でも、今は男子と一緒に練習している。
男子も強いけど、いつも私が勝っちゃうんだよね。

そんな私は、女子にモテる。
ファンクラブもあるらしくて......今日もファンの子達が見学にきている。



部活が終わると、すぐに女子達に囲まれた。

「渚様!チョコ貰って下さい!」

あぁ、今日はバレンタインだったっけ。

「ありがとう。」

私は笑顔でチョコを受け取った。
ちなみに男子柔道部員達は誰にも貰えないみたいで、私の事を羨ましそうに見ていた。



「あー。今年もたくさん貰えたなぁ。」

袋いっぱいに入ったチョコを見ながら、一人呟いた。

物心ついた頃から、性格が男っぽくて女子に人気があった。
その代わり、一度も恋はした事ないけど......
別にしたいとも思わないけどさ。

「お疲れ様でした!」

私は、制服に着替えて部室を後にした。



校門を出た所で、一人の男が近寄ってきて

「あの......渚さん。これ受け取って下さい。」
と、チョコを渡してきた。

この人って......隣のクラスの

「金沢優......さん?」

「はい!優です。僕の事、ご存じだったんですね。嬉しいな......」

そりゃ知ってるよ。有名だもん。
美術部部長の優姫じゃん。男子なのに、性格女っぽい......今でいうオトメン?

それにしても、優姫にチョコ貰うなんて......これって逆チョコだよね?
まぁくれるって言うんだから、貰っておこう。

「ありがとう。」
と言って、私がチョコを受け取ると

「受け取ってくれて良かった......あっ!それじゃあ、僕は帰りますね。またお話して下さい!」
と優は顔を赤くして言って、足早に帰って行った。

本当、姫って言われるだけあるわ。
可愛い人だなぁ......
私より背低いし......

これが、私が優に抱いた最初の印象だった。