「本当に綺麗だね。麗しい。
 その言葉に尽きるよ」

突然の声に驚き、声のする方を見る。
そこにいたのは、黒髪の男の子だった。
紛れもなく、桜井君、その人。

……でも、変なの。

“麗しい”なんて言葉、普通、高校生が使うだろうか。
「変人」
その言葉が、私の頭に浮かぶ。
どうやら、あの噂は本当のようね。
私は、ただ黙っていた。

「桃色って良いよね。見ているだけで、甘い香りに包まれるようだ」

そう言って、桜井君は目をつむった。
…全身全霊で、桜を感じるかのように。

良く理解はできないけど、この人、男の人なのに桃色が好きなんだ。

桜井君が、目を開ける。
そして、私に向かって、微笑んだ。
思わず、どきっとする。


「あ、髪に花びらがついてる」

「え?」

そう言ったかと思うと、桜井君は、ゆっくりこちらに来て、右手を伸ばした。
優しい手が、私の髪に触れる。
すーっと花びらを絡め取って、にっこり笑う。

「取れたよ」
「え、あ、ありがとう」

風が、地面に落ちていた花びらをさらっていく。
桜のじゅうたんが、サラサラと風に誘導されてゆく。


「お昼、まだなんだ。一緒に、いいかな」

そう言って桜井君は、また笑った。