少女の唇はそれはそれは瑞々しく美味しそうだった。恐らく化粧をしてないと思われるその肌は陶器のように白く触れてしまいたい衝動さえ覚えた。だが彼女の放つ儚げな雰囲気が俺の理性に訴え、壊してしまうなと嘆くのだ。触れてはいけない美しさというのだろうか、彼女の姿はまさにそれだった。穢れを知らない、色をもたない、透明で麗しい美少女――それが彼女だ。
「行彦さん」彼女の唇が俺の名を紡ぐ。それだけで俺は幸せなのだ。――にも拘らず、俺はさらに彼女を求めてしまう罪人なのだ。俺のような汚れた中年が触れていい存在ではないのは解っているのに――それでも触れたいと願ってしまう。
 彼女の名は坂和美寿々。俺は彼女を苗字で呼んでいるが、心中では「みすずちゃん」と非常に馴れ馴れしく呼んでいる。
 みすずちゃんは頑張り屋な女の子だけど、精神的に弱い女の子だ。彼女は精神の類いの病を発しているらしく、よく薬を飲む光景を眼にしている。それだけならいいのだが、彼女のボロボロの腕を見るのは心がいたい。みすずちゃんは俺の太陽なのだ。