隆に連れて行かれたのは病院の裏庭だった

「着いたよ」

『はぁはぁ…もぅ…なんなのよここ?』

肩で息をする私の手を隆が離した

呼吸がおさまってきて隆に文句を言おうと顔をあげた時私はあるものを見つけた

『これって・・・』

「驚いた?」

そういって私に笑いかける隆の後ろには冬の夜空をピンク色に染めるあの桜の木だった。

『どうして・・・。』

私はそっと桜に近づいた。

「咲いたんだよ、桜。」

上を見上げると風に揺られた桜の花びらが夜の病院を鮮やかに染めていた。

その中の一つが風に乗りふわりと私の肩にのった。

私はそれをつかみそれを見つめた






・・・なんだそういうことか





気がつくと私は花びらをギュッと握りしめ目からは大粒の涙を流していた


私の手には桜の花びらの形に切られた折り紙


そう、桜の木には何千という折り紙の花びらがくっつけられていたのだ。


隆がしてくれたの?


泣いてしまって動けなくなった私の横に立つと隆がそっといった。

「美加ちゃん、桜咲いたよ。あんまりきれいじゃないかもしれないけど。それでもこの桜は咲いたんだ。」
『うんん、凄くきれい』

そう笑って隆にいった。

「よかった。美加ちゃんが笑ってくれて。でも泣きながら笑って変な顔」

そう言って笑った。

『何それひどい!』

そう言って隆に背を向ける

「ごめん、ごめん怒らないでよ」

そういっておろおろと焦った様子の隆の声が聞こえる。そうして私に何度も謝ってくる。

気がつく涙が止まっていた。
強い風が吹き桜の花びらが夜の空にまっていく




『ありがと・・・・隆』



その声は誰にも聞かれないまま夜の風に流されていった。