「瀬尾さん、僕の授業が眠くても、もう少しなんで我慢してください」

教室が笑いに包まれる。

別に眠い訳じゃないもん!

そう口に出したかったが結局美月は口をつぐんだ。





廊下には生徒の姿はなく、グラウンドからは部活の声やざわめきが聞こえる。

元々図書室やいくつかの準備室しかないこの階は、普段でも近づく生徒は少なく放課後となると人影はほぼない。

今日、図書当番でもない美月はここにいる理由がない。

やっぱ帰ろう!
来いって言われたからってバカ正直に来たら笑われるだけの気がする。

それにせんせには関わらない方がいい…。

踵を返して階段へ戻ろうとしたらわずかにコーヒーの香りがした。

美月は先程の決意はどこへやら、香りに惹かれるように谷川のいるであろう準備室にフラリと足を向けた。

ドアの把手に手をかけようとして慌てて引っ込める。

開けたらもう戻れない気がする…。

開けたい気持ちとこのまま帰りたい気持ちとが美月の中でせめぎあっている。

そんな美月の目の前でドアが開いた。