『理科準備室』

美月はそっと把手に手をかけてスライドさせてみた。

細く開いた隙間から強く香るコーヒーの匂い。

誰か先生がコーヒー飲んでんのかな?

好奇心で更にドアをもう少しスライドさせて覗いてみる。

谷川せんせ?

授業中にかけている黒縁の眼鏡はその顔になく、ペンを持った手で頬杖をついて資料らしき物に目を落としている。

少し身を乗り出した美月は、ふいに顔を上げた谷川ともろに目が合ってしまった。

やばっ!

慌ててドアを閉めようとしたが、それよりも早く谷川が声をかける。

「瀬尾?」

呼び止められて逃げるタイミングを失ってしまった美月は仕方なく準備室の入り口に立った。

覗いていた後ろめたさから口を開く事が出来ない。

谷川はそんな美月を気にする様子もなく気軽に声をかけた。

「そんなとこに立ってないで入れよ」

どうせ見つかったんだから今更逃げても意味ないか。

そう思った美月は後ろ手でドアを閉め谷川の近くまで歩み寄った。