廊下を歩く主治医を呼び止めて

「先生、お話が有るんですが?」

主治医の佐々木は50歳近くで
この病院の内科部長である
衛とは、何度も会っているので
顔見知りだ。

「どうした!彼女のことか?」

衛の気持ちが判って射るかのように
話し出した。

「透析を続けていけば

命をつなぐことは大丈夫だから

安心しなさい」

「先生、元の元気なかずちゃんに

するには、腎移植が必要では

ないですか?」

「そうだね、でも今、何万人の人が

移植を待っているから千裟さんの

順番は何時になるか?」

「そうですか!

それなら僕の腎臓を

かずちゃんにあげたいのですが?」

「おい!おい!馬鹿な事を言っては

いけないよ。君には未来が待っている

腎臓が1つでは若い男の君の人生を

乗り越える事ができないよ。」

「でも!かずちゃんだって

僕と同じ年齢です。2人で未来を

一緒に過ごしますから!」

衛の千裟への只ならぬ思いを察知した
佐々木先生は・・

「そうか、君の気持ちは受け止めておく

そのときが来たら君に相談するから」

そう言って佐々木は衛の前から立ち去った。

病室に戻った衛は、やせ細った
千裟の身体を
みてその思いを強く感じた。

「衛!此処へ来て」

千裟は小学校のアルバムを手にもって
ベッドの上に開いていた。

「ネエ、これ!」

千裟は、アルバムの写真を指差し

「この時の遠足、城ヶ島だったよね」

昔の思い出を何故かいとおしく
話し出した。

「そう小6の時だけど?」

「あの高いつり橋、怖かった!」

「どうしたの!かずちゃん?」