両手でも足りない

がっくりと肩を落としたあたしに海斗ママは心配そうな表情を見せる。

『どうしたの?』

『…なんでもない、海斗ママありがと』


隣の家から出てきたあたしは、トボトボと自分の家へと向かえば。

ふわっとスッキリするような香りが鼻を掠め、その匂いに釣られ頭を上げると、ちょうど“デート”から帰ってきた海斗が欝陶しそうに立っていた。


香りの正体は海斗がつけていた香水。

『チビ、邪魔』

そう言われるほど、そんなに狭くもない道幅だっていうのに、邪魔だと言われたチビのあたしは民家側へと身体を寄せるしかない。


『あっ!海斗。で、デートってほん…』

デートってほんとなの?


出かかった言葉を飲み込む。そして、首を横に振って。


『あ…いや、えーと…。デートって!どこ行って遊ぶの!?ほら…、ここって何もない町だからどこ遊びに行くのかなあって!深い意味はないんだけどさ』

ペラペラと喋るあたしをちらっと見ただけで。

『意味ないなら聞くなよ』