両手でも足りない

海斗の淡々とした口調はさっきまでの勢いはないものの、それでもあたしに聞こえるくらいの声の大きさで話し出した。


「悔しくて悔しくて、中学に上がれば勝てるかと思ったけど適わなくて。お前はトモ兄に懐いてるし、おばさんは俺よりトモ兄を気に入ってるし」

それは、海斗が悪ガキだったからじゃないか。とは口が挟めるような間ではなかった。海斗の話が続いた。


「極めつけに、…あいつ中学にもなって幼なじみと遊んで恥ずかしいって。カッコつけといて自分はなんだよっ!何がデートだ…、ふざけんなっ」

やっぱり、“デート”って口走ったのはまずかったんだ、と。

ほんとに悔しそうな海斗。でも最後の方は悪意に満ち溢れているかのよう。


「…ちょ、それってもしかして…トモくんへのライバル心のせい?ってか、…トモくんに挑発されたせいって、…こと!?」

「まあ…、そうかも。だけどっ、子供とはいえムカついて悔しくて仕方なかったんだよ。別に嫌ってたわけでも、避けてたわけでもない」

そう言ったあと、一瞬耳たぶを触ったのをあたしは見逃さなかった。