両手でも足りない

「はあ!?伸ばしてないしっ!明らかにお前らの視線が俺を追いかけてきてたからだろ!それに、なんでお前が悩むんだよ!?」

「あたしだって、海斗のこと好きなんだからっ!それなのに中学に入ってすぐ急に、…話しかけるなとか、あからさまに冷たい態度取って避けてたくせに!それなのに急に好きとか…。何それっ…、バカみたいっ!あたしが好きなの!」

「すっげえ…。凄まじい告白だな」

スピードが落ちたのと同時に、前から振り下ろされた呆れ声。


「あ…いや、今のはね…」

ハッとして、後悔しても遅すぎる。


喧嘩腰に吐き出したそれを撤回する術はないみたい。


「焦っても無駄!しかと聞いたぞ」

意地悪そうな笑いを含んだ言い方をする海斗。


「ってか…、海斗が全部悪いんでしょ!」

「ばっ、なんで俺だよ!お前だってトモ兄とデートしてたくせに」

「それはあの時は…、その…。だって!…どうみたって嫌われてるとしか思えなかったんだもん」


今まで、あんなに海斗のことで悩んできたのは全部、海斗が悪いんだから。


「俺の愛情表現がわからん、お前が悪いんだろ」

「そんなややこしい愛情表現がわかるわけないじゃんっ!」

あたしと海斗の言い合う大きな声は静かな住宅地に響き渡る。