両手でも足りない

学校が終わり真っ直ぐ帰路に着く海斗は、身支度を済ますと夕方こうして出かけていく。それは今年に入ってから。

どこに行くのかはわからないけれど、前に聞いた海斗ママの話しだと、“キレイ”な女の子とデートらしい。


『駅前で見かけたんだけど、細身で髪もサラっとしてるキレイな子と歩いてたのよ。こーんな小さな町じゃデートする場所なんてないからねぇ』

暢気な口調の海斗ママに、この時あたしは僅かに苛立ちを覚えて、近くまで詰め寄り問い詰める。


『どんな子だった!?キレイっても色々あるでしょ!?』

目がパッチリだとか、唇がぽってりしてるとか。誰が見ても“キレイ”なのか、とか!


あたしの迫力にも動じない海斗ママは、ゆっくりと口を開く。

『そう言われてもねぇ。あっ、そうだわ。背は青海ちゃんよりは高かったわよ』

思い出したかのように、ニッコリと笑顔を作る海斗ママ。


そんなことが聞きたかったわけじゃない。

ちょっとズレてるよ、海斗ママ。ほんわかしてて好きだけどね。今は違うんだよ。


…なんで、この海斗ママ子供があんな無愛想になっちゃったんだろう。不思議でならない。