両手でも足りない

あたしにとっては決死の覚悟で問いかけたつもりなのに。


「だって風で聞こえなかったんだもん!」

あたかもふてくされたかのようにかわいくない声色で。


「もういいよっ…」

なんともかわいくない態度を取るあたし。


子供の時の遊びの続きみたいで、ちょっぴり嬉しかった。

また、戻れるかもなんて期待して。


でも、離れて行く距離はどうしたって埋まらない。

寒いのにあたしなんか乗せて、よく遊びにきたあの海にきて。

いつの間に書いたのか落書きを前に、少し寂しげな海斗の顔があたしはずっと気になっていた。


行きは長く感じたのに帰りはあっという間で。

海斗には申し訳ないけど、向かい風がもっと強かったらいいのに。

って、見慣れた町並みが視界に映り込むと、急に寂しくなる。