両手でも足りない

あたしが投げつけた台詞に足を止めると、ゆっくりと振り返った海斗はこれでもかと瞳を大きくさせ、コイツ、信じられないといったような形相を向けた。


「早く来いよ!置いてくぞ!…ったく信じられん、ほんとに。チビのくせに。だからバカだって言ってんだよ」

わざとあたしに聞こえるように風にまけないくらいの大きな声を出して、また足早に距離が開いて行く。


こういう時の悪口だけははっきりと聞こえて、あたしはなんで怒られているのかもわからずに、息を切らし小走りで海斗に駆け寄る。


やっとの思いで追いつくと、海斗はすでに自転車にまたがっていた。


「早く乗れ」

来た時と同様に、わけがわからないままあたしは後ろから海斗にしがみつく。


「向かい風とか最悪っ」

ぶつぶつと吐き捨てる文句も、過ぎゆく風に負けずに声を荒げる。


あまりに冷たい風に目をギュッと瞑り、どうしても腑に落ちないあたしの口が開く。


「さっきなんて言ったのー!?」

「もう2度と言わねー!」

一瞬緩めた海斗の足はそう冷たく言い放つと、すぐ漕ぐスピードを上げる。