両手でも足りない

寒さもあってか、あたしの顔が強張っているのがわかる。

それでも平然を装っていると。


海斗は肩を大きく揺らして、深い溜め息を声に出していた。


「…寒いし、帰るか」

今度ははっきりと聞こえて、その意味すらあたしには理解不能で。


「え?」

急に何を言い出すのかと思ったら、帰るかって…。


「もう用はないし。そういうことだから」

さも納得したかのようにそう言うと、さっきまでの微妙な表情はもう消えていて、すっきりとしたいつもの飄々とした態度で、置いてある自転車まで歩きだそうとする。


「…そういうことだからって、なにが!?ちょ…、待ってよ!」

「なんだよ。そういうことはそういうことだろ」

あたしの叫んだ大きな声に振り向こうともせず、大きな叫び声だけが返される。


…わけわかんない。


「ちょ!さっき何言ったのか聞こえなかったんだってば!待ってよー!」

思わず右足で地面を蹴ったのは、この状況がわからないことの怒りというか八つ当たりかもしれない。