両手でも足りない

って。

なんであたしにこんなことを話す気になったのか、海斗の言動が疑問だらけで。

あたしはそれを聞いていいのか、ここにいていいのか。どうしていいのかわからなくなる。


ひんやりとした潮風があたしの頬を掠る。なにも言えずに海斗を見下ろしていると、吹いた風によって前髪がサラッと靡いた。

ドキンと心臓が跳ね上がったのは、あたしをじっと見上げている海斗と目が合ったから。


いつものあの俺様な態度とは違って、あんな人を見下すような態度ではなく。

荒れた海とは正反対、穏やかで微妙な表情をさせていた。


あたしの姿を捉えたまま静かに立ち上がった海斗は、少し紅くなった自分の耳たぶを触りながら口を開く。


開けたまま何の言葉も出てこない海斗の口を見つめるあたしも、ならうように耳たぶをいじって、しばらくの間無言が続く。


ようやく海斗の口が動いた。

「俺、もしかしたら…」


けれどそれは激しく吹く風によってかき消され、唇の動きを追うも何を言っているのかあたしにはわからなかった。