両手でも足りない

「…これ。…誰が書いたの?」

「俺」

と、答えた海斗の目線の先。


いつも遊び道具置き場にしていた場所に、マジックで落書きが書かれていた。

それは薄くなってしまってはいたけれど、子供が書いたと思われる字で。


『トモ兄にまけるもんか!』

そう書かれている。


「どういうこと?いつ書いたの?」

意味がわからないあたしは、ただ海斗の俯いた頭を見つめるしかできない。


「中学に上がったばっかの時、ひとりで書きに来たんだこれ」

まだ残ってたか、と、懐かしそうに付け加えて、言葉を続けた。


「1コしか変わらないのにさ、無性に置いてかれてる気がして、背伸びしても届かなくて。マジ腹立った。俺の永遠のライバルかもな、あいつ」

俯いた横顔が本気で悔しそうで、トモくんに対してのライバル心があったなんて知らなかった。