両手でも足りない

隣なのは出席番号だけじゃなく、家もお隣さんで。

どっちの名前にも“海”という文字がつくのは、親同士が幼なじみで仲が良くて。海沿いの町に生まれたことが重なってつけられた名前。

だけど、親同士が親しくても、その子供同士といえばこんな感じで反発ばかり。

小学校の頃は、海岸まで遊びに行ったり、泳いだり。一緒に登下校して。


いつも一緒だったのが、中学校に入ってすぐ。

『ガキじゃないんだし、もう俺につきまとんなよ』

って、突き放されちゃったんだ、あたし。

その頃から海斗はあんな風に変わってしまって、行動は別々、あたしのことを名前で呼ばなくなったのもこの頃から。


毛先にワックスをつけ、遊ばせた髪。スラッと伸びた細身の身体は、いつの間にかあたしを追い越し、声変わりして低く発する声。飛び出た喉仏に、ゴツゴツした指。

変わっていく海斗の容貌に、なんだかあたしは取り残された気分。


気にしてないなんて思い聞かせながら、しっかりあたしの瞳は小さくなっていく海斗の姿にくぎづけ。


「無邪気に、毎日遊んでたのになあ…」

ぽつりと呟いた言葉は誰にも届くことはなく。

勉強机の上に置いてあるアルバムの中でだけ、あたしたち二人は笑顔をさらけ出している。