「じょーだんじゃなく、本気。今年から行ってんだよ。あの子は同じ塾の子で駅で一緒になるだけ。それなのにデートって、お前みたいに俺はそんなに暇じゃないんだよ」

「なっ!あたしだって暇じゃないもん!」

気がつけばあたしは、枕を叩き八つ当たりしていた。


「どうみても暇だろ。トモ兄とデートするくらいは。よかったな」

姿や顔は見えなくても、バカにした感じが伺える。


って。よかったなって、何が?


「…何が?」

「おばさん、喜んでるだろ?念願のトモ兄と付き合ってるんだから」

あー、なるほど。


海斗の言葉にあたしは納得してしまった。頷いてる場合でもないのに。


「そっか、そういうことね」

なんて感心したように相槌打っちゃって。


「って…。違う!」

ひとりツッコミも虚しく、ぎゅっと握りしめたシーツの端に皺ができる。


「ま、関係ないけど」

そう言ったあと、隣からベッドがギシッと軋む音が聞こえる。

どうやら海斗はベッドから降りたようで、カーテンに黒い影ができた。

「せいぜい、がんばれよな」

海斗の声と一緒に足音がして、しばらくしたのちドアがガラっと開いて、バタンと静かに閉まる。